春がそっと、あたしの鼻を悪戯にくすぐっては笑ってるの。
そう、これ花粉症の話ね。おまえたちはいかがお過ごしかしら。
先日から見かけていた産毛の可愛いつぼみが咲いてたんだけど、これがまあ何とも品がなくて。なんであんなにも大きくなっちゃったんだか。
そのことを話したら、おまえが花の名前を教えてくれたわね。モクレンでしょ、覚えたわよ。
そう、モクレン。別に名前なんてどうでもよかったんだけどね、産毛のつぼみって名前の方がなんだか春のちいさな生き物らしくて可愛いでしょう。つぎに新しい植物が見つかったら、あたしに命名させてよ、きっと美しい名前をつけてあげるからね。
あんなに可愛かったつぼみが咲いた姿をあたしは喜べなかった。美しくない、品がない、おどろおどろしいと思ったわ、たった数日で大きくなったあの花が怖かった。自分の花弁の重みで首を下げるあの花が嫌。あたし好みの姿じゃなくなったから、嫌。
別になんてこともないわ、わざわざ花を毟ろうとまでは考えてないもの。
ただ、もうあの花は見ないことにするわあ。
じきにぼとりと落ちて、ほら見たことか、もっと小さい花にすればよかったのにと、不遜にもあたしを少し悲しませるだろうから、嫌よ。
あれはね、あたしの記憶に残ったの。あたしの心を引っ搔いた、愚鈍な花!
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